特定技能外国人の脱退一時金制度と企業の対応ポイント

特定技能の在留資格を持つ外国人を採用する際、雇用主が理解しておくべき重要な制度の一つが「脱退一時金」です。これは、一定の条件を満たして帰国する外国人が、納めた年金保険料の一部を受け取れる仕組みです。

申請条件や手続きの方法、支給対象外となるケースなど、企業側が正しく理解し説明できるようにすることで、外国人労働者との信頼関係を築き、トラブルの予防にもつながります。本記事では、制度の概要から実務に役立つ注意点まで、わかりやすく解説します。

脱退一時金は外国人労働者への年金払い戻し制度

脱退一時金は、日本で厚生年金などの社会保険に加入していた外国人が帰国する際に、一定の条件のもと支払った年金保険料の一部を受け取れる制度です。

掛け捨てへの不安を軽減する制度設計

外国人労働者は日本国内にいる間、原則として社会保険へ加入する義務があります。しかし、将来再来日して年金を受給する予定がない場合、支払った年金が掛け捨てになる不満を持つ人も少なくありません。この制度は、そうした不公平感を軽減するための仕組みとして機能しています。

企業側も制度を理解し説明できる体制が必要

社会保険料に関して不満や誤解が生まれないようにするため、企業は制度の概要や支給条件、手続きの流れを把握しておくことが求められます。

脱退一時金を受け取るための5つの支給条件

外国人労働者であっても、脱退一時金を受け取れるのは一定の条件をすべて満たす場合に限られます。

支給対象となる主な条件

  • 日本国籍を有していないこと
  • 年金の加入期間が6か月以上10年未満であること
  • 障害年金を受給したことがない、またはその権利を持ったことがないこと
  • 日本国内に住所を有していないこと
  • 社会保険の資格を喪失してから2年以内であること

年金加入期間に関する注意点

10年を超えて加入している場合は、老齢年金の受給資格を満たすことになるため、脱退一時金の対象外となります。未納期間は加入期間としてカウントされない点にも注意が必要です。

脱退一時金の支給対象外となる主なパターン

以下のいずれかに該当する場合、脱退一時金の支給対象から外れます。制度の適用除外となる具体的な状況を把握しておきましょう。

支給対象外となるケース

  • 年金制度の被保険者である状態が続いている
  • 日本に住民登録があり、引き続き国内に居住している
  • 社会保険の資格を喪失してから2年以上が経過している
  • 障害基礎年金やその他年金を受け取ったことがある、またはその権利を持っていた

脱退一時金の申請手続きと必要書類の確認

申請は本人または代理人による個別の手続きが必要で、企業が代行することはできません。間違いがないよう、準備する書類や申請先について整理しておきましょう。

請求手続きの基本情報

  • 申請者:本人または委任状を持つ代理人
  • 提出先:日本年金機構や各共済組合
  • 申請方法:郵送または電子申請(国外からの申請可)
  • 期限:住所喪失日または資格喪失日から2年以内

提出が必要な主な書類

  • 請求書(多言語対応あり)
  • パスポートのコピー(身分・在留資格確認)
  • 転出を確認できる書類(住民票除票など)
  • 海外送金口座情報(名義・番号・支店名など)
  • 基礎年金番号の記載書類
  • 委任状(代理人が申請する場合)

請求手続きでの注意点とよくあるミス

正しい手順を守らなければ、申請が無効になるリスクがあります。制度をスムーズに利用するため、以下の点に特に注意しましょう。

申請タイミングに関するポイント

  • 転出届を出した後で申請する
  • 日本国内に住所がある状態では申請不可
  • 申請順序を守る(転出届→請求書提出)

年金受給の可能性を考慮した慎重な判断を

脱退一時金を受け取ると、それ以前の加入期間は年金資格としてカウントされなくなります。将来的に再来日して年金受給を検討する可能性がある場合は、慎重な判断が必要です。

社会保障協定がある国の出身者が申請する際の注意点

日本と社会保障協定を結んでいる国の外国人が脱退一時金を請求する場合は、特別な配慮が必要です。

協定国出身者のリスク

  • 協定により、日本での年金加入期間が母国の制度と通算可能
  • 脱退一時金を請求すると、その期間の通算が無効になる
  • 結果的に母国でも年金受給資格を失う可能性あり

最新情報の確認を推奨

社会保障協定の対象国や内容は変更されることがあるため、請求前に最新の協定状況を確認するように案内しましょう。

企業が対応すべき実務上のポイント

脱退一時金は本人申請ですが、企業の説明とサポートも極めて重要です。外国人労働者の理解不足によるトラブルを防ぐため、以下の点に配慮しましょう。

企業が行うべき対応内容

  • 手続きは本人が行うことを明確に説明する
    誤解から手続きが遅れ、申請期限を過ぎてしまうケースも多いため注意が必要です。
  • 支給額は概算であることを伝える
    モデル計算との差異によりトラブルになることもあるため、実際の金額とは異なる可能性があると説明しましょう。
  • 申請サポート体制を整える
    書類の準備方法や問い合わせ先の案内をサポートすることで、安心して申請できる環境を提供できます。

脱退一時金の計算方法と所得税の扱い

脱退一時金の金額は、年金加入期間中の平均標準報酬額と支給率によって決まります。

支給額の算出方法

コピーする編集する平均標準報酬額 × 支給率 = 脱退一時金額

支給率(2021年4月以降)

加入期間支給率
6~12カ月未満0.5
12~18カ月未満1.1
18~24カ月未満1.6
24~30カ月未満2.2
30~36カ月未満2.7
36~42カ月未満3.3
42~48カ月未満3.8
48~54カ月未満4.4
54~60カ月未満4.9
60カ月以上5.5

所得税の課税と還付について

脱退一時金には所得税が課されますが、帰国後に還付申告を行うことで、納めた税金の一部を取り戻すことが可能です。

制度を正しく理解して外国人との信頼関係を構築

外国人労働者の年金制度に関する誤解や不満を防ぐためには、企業側の制度理解が不可欠です。脱退一時金に関する正確な情報提供とサポート体制を整えることで、トラブル防止と信頼構築につながります。

特定技能の外国人を安心して迎え入れるためにも、制度の運用方法を今一度確認し、実務対応の精度を高めていきましょう。